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石割桜 ; 塗炭の苦しみ

石割桜 ; 塗炭の苦しみ

大岡昇平作 『野火』

 読んだのがだいぶ以前で、記憶違いがあるかもしれないが、この作品、第二次大戦中のアジアの地で、日本兵士が飢えで衰弱しながら戦っている時のはなしである。肉はおろか、日々の食事も満足に食べられない中、肉を食べたいと思う一部の兵士が、最初は、死体から肉を取って食べ、「さるを食べてきた。」ことにしていた。そのうち、ころがっている死体も食べつくしてしまう。肉食の習慣をつけてしまった一部の兵士たちは、人肉を食べたさに、地元の村民がひとりで森に来たのを集団でおそって食べることまでした。そのうちに、村民の間で、ひとりで歩いていると襲われると噂になり、村民は、ひとりでは行動しないように注意したため、肉食の補給ができにくくなった。それでも、人肉を食べる習慣がついてしまった一部の兵士たちは、食べたい欲求のままに、ついに、仲間である、日本兵士のなかで弱っている人間に襲いかかって食べてしまう。
 これは、あくまでも小説であり、事実は定かではないが、食糧事情はひどかったであろう。人肉を食べる悦楽を一度、味わってしまったことで、悦楽を得たいがために手段を選ばなくなるという人間のおろかさについて考えさせられる。
 


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